July 02, 2022
イアン・S・ポート「フェンダー VS ギブソン 音楽の未来を変えた挑戦者たち」を読んだ
原本「The Birth of Loud」が出たときに読みたいと思ったけれど、当時は大判のハードカバーしか出ていなかったのでちょっと面倒だなと躊躇しているうちに、ある日気付いてみたらもう日本語訳が出ていたのでこれはズルして日本語でそのうち読もうと思っていたら随分時間が経っていた。
Amazon affiliate
Amazon affiliate
丁寧な取材や参考文献の参照に基づいた文章で、よくあるこの手の音楽畑の適当なノンフィクション本とはかなり雰囲気が違うなと感じつつ読み進んでみたら、最後の謝辞で元々は大学院時代の研究企画から発展した著作であることが判り、なるほどと合点がいった。
要するによくあるロックバンドの嘘か本当か判らない都市伝説の類をまとめた伝記本とはまったく異なる、まさにリアルなエレキギター、そしてエレキベースの歴史を紐解く傑作本。なので、趣味であれ仕事であれエレキギターやエレキベースを弾く者であれば、誰もが目を通すのが相応しい作品だと思う。
エレキギターのレス・ポールとストラトキャスターは、どちらも最初に発売された時点では数年で人気が陰り市場から消え去る運命にあった(実際レス・ポールは製造が打ち切られた)のに、その後、クラプトンやヘンドリクスのような優れたアーティスト達がほとんど偶然ともいえるような状況で使う機会を得て成功した結果、今やどちらのモデルもエレキギターの歴史において他に比べようもない名器と評価されるに至ったのが面白い。運命というのはどう転ぶか判らないものだ。
個人的にはウッドストックでのヘンドリクスが演奏したアメリカ国歌「The Star-Spangled Banner(星条旗)」が当時の米国の人々に与えた真の意味が本書を読んでようやく理解できたのがちょっとした感動だった。単に楽器演奏的にすごかったというのではなく、あの時代にあの曲をああいう形で表現したという意味の重さが、恥ずかしながら日本人の自分には判っていなかった。
本書から「42章 エレクトリック・ギターがあらゆるものを表現できた」をまるまる引用できれば、なぜ自分がそれほど感動したかを簡単に伝えられるかもしれないが、それはさすがに著作権的にも無理なので、もっとも判りやすいと思われる一節を以下に引用しておく。
また本書の中では、いかにヘンドリクスが国歌の歌詞に合わせてギターを変幻自在に演奏したかがフレーズごとに解説されていて、米国の国歌をリアルに知る米国人以外には、とくに英語さえもほとんど判っていないような自分にはあの演奏の意味がまったく理解できていなかったことがよく判ったし、そういう背景を知らず単にド派手な演奏だからサイコーと安易に盛り上がっていた自分を恥じた。これまでは割と気軽に「なんちゃってスタースパングルドバナーです」みたいな感じで人前でもヘンドリクス風演奏を真似て遊んだりすることもあったけれど、ちょっとそれはもう出来ないのかなと…。
それにしても、エレキギターやエレキベースの歴史の中で製造開始以来一度も不人気の誹りを受けて忘れ去られるような憂き目に遭わなかったのはプレシジョンベースぐらい(もしかしたらジャズベースも?)なのが興味深いというか、それだけエレキベースという楽器はエレキギターよりも音楽のあり方を根本的に変えてしまった発明だったようだし、その後はシンセとターンテーブルとサンプラーとDAWあたりの登場まで待つことになるのかな?
本書の主人公であるレオ・フェンダーとレス・ポールの二人は、いずれもそのキャリアのかなり初期ですでに五体満足とは言えないような身体的障害を持つ不幸にあったにもかかわらず、その境遇に屈することなく晩年まで自分達のやりたいことを全うしたのが素晴らしく自分も見習いたいものだと感じた。もっとも、自分の人生はどこを切り取っても何の成功も収めておらず、一体何を全うすべきなのかという大きな問題が残るのだけれど……。
Amazon affiliate
フェンダーVSギブソン 音楽の未来を変えた挑戦者たち DU BOOKS ライバル企業の闘いが、音楽の未来を創った! エレキ・ギターの開発と普及、企業の発展史を、ロック黄金期とともに綴った傑作ノンフィクション。(製品紹介文より) |
Amazon affiliate
The Birth of Loud: Leo Fender, Les Paul, and the Guitar-Pioneering Rivalry That Shaped Rock 'n' Roll |
丁寧な取材や参考文献の参照に基づいた文章で、よくあるこの手の音楽畑の適当なノンフィクション本とはかなり雰囲気が違うなと感じつつ読み進んでみたら、最後の謝辞で元々は大学院時代の研究企画から発展した著作であることが判り、なるほどと合点がいった。
要するによくあるロックバンドの嘘か本当か判らない都市伝説の類をまとめた伝記本とはまったく異なる、まさにリアルなエレキギター、そしてエレキベースの歴史を紐解く傑作本。なので、趣味であれ仕事であれエレキギターやエレキベースを弾く者であれば、誰もが目を通すのが相応しい作品だと思う。
エレキギターのレス・ポールとストラトキャスターは、どちらも最初に発売された時点では数年で人気が陰り市場から消え去る運命にあった(実際レス・ポールは製造が打ち切られた)のに、その後、クラプトンやヘンドリクスのような優れたアーティスト達がほとんど偶然ともいえるような状況で使う機会を得て成功した結果、今やどちらのモデルもエレキギターの歴史において他に比べようもない名器と評価されるに至ったのが面白い。運命というのはどう転ぶか判らないものだ。
個人的にはウッドストックでのヘンドリクスが演奏したアメリカ国歌「The Star-Spangled Banner(星条旗)」が当時の米国の人々に与えた真の意味が本書を読んでようやく理解できたのがちょっとした感動だった。単に楽器演奏的にすごかったというのではなく、あの時代にあの曲をああいう形で表現したという意味の重さが、恥ずかしながら日本人の自分には判っていなかった。
本書から「42章 エレクトリック・ギターがあらゆるものを表現できた」をまるまる引用できれば、なぜ自分がそれほど感動したかを簡単に伝えられるかもしれないが、それはさすがに著作権的にも無理なので、もっとも判りやすいと思われる一節を以下に引用しておく。
「これより前に」と、目撃者のローズ・ペインも口にした。「誰かが<星条旗>を演奏していたら、私たちはブーイングをしていたでしょうね。あのあとは、この曲は自分たちの歌になったの」
「おそらくは1960年代で最高の瞬間といえるだろう」と、音楽評論家のアル・アロノウィッツは言う。「この曲の内容が、ようやくわかったのだから。自分の国を愛していいし、政府を憎んでいいと」
また本書の中では、いかにヘンドリクスが国歌の歌詞に合わせてギターを変幻自在に演奏したかがフレーズごとに解説されていて、米国の国歌をリアルに知る米国人以外には、とくに英語さえもほとんど判っていないような自分にはあの演奏の意味がまったく理解できていなかったことがよく判ったし、そういう背景を知らず単にド派手な演奏だからサイコーと安易に盛り上がっていた自分を恥じた。これまでは割と気軽に「なんちゃってスタースパングルドバナーです」みたいな感じで人前でもヘンドリクス風演奏を真似て遊んだりすることもあったけれど、ちょっとそれはもう出来ないのかなと…。
それにしても、エレキギターやエレキベースの歴史の中で製造開始以来一度も不人気の誹りを受けて忘れ去られるような憂き目に遭わなかったのはプレシジョンベースぐらい(もしかしたらジャズベースも?)なのが興味深いというか、それだけエレキベースという楽器はエレキギターよりも音楽のあり方を根本的に変えてしまった発明だったようだし、その後はシンセとターンテーブルとサンプラーとDAWあたりの登場まで待つことになるのかな?
本書の主人公であるレオ・フェンダーとレス・ポールの二人は、いずれもそのキャリアのかなり初期ですでに五体満足とは言えないような身体的障害を持つ不幸にあったにもかかわらず、その境遇に屈することなく晩年まで自分達のやりたいことを全うしたのが素晴らしく自分も見習いたいものだと感じた。もっとも、自分の人生はどこを切り取っても何の成功も収めておらず、一体何を全うすべきなのかという大きな問題が残るのだけれど……。