March 08, 2020

山田敏弘「CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作」を読んだ

 書評を見て興味を覚えたので読んでみた。


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CIAスパイ養成官 :キヨ・ヤマダの対日工作
山田敏
弘新潮社(2019/8/21)

米国・アーリントン国立墓地で、静かに眠る日本人女性―その名前はキヨ・ヤマダ。彼女はCIAで日本語を教え、多くのスパイを育て上げた。教え子たちは数々の対日工作に関わり、キヨ自らも秘匿任務に従事していた。歴史に埋もれたキヨの人生と、知られざる日米諜報秘史。(製品紹介文より)


 家族も含め他人にはCIA職員という自分の身分を明かすことができない人生を歩みつつ、その職務の中では著しい成果を残した一人の日本人女性の足跡をたどるという、なかなかに好奇心を刺激する本。

 本を読み進めるうちに、こういう人生もあるのだなという感慨を覚えつつ、情けないことに知らず知らずで自分自身の人生とキヨ・ヤマダさんのそれを比較してしまい、自分には彼女のように人知れずではありながら立派な業績があるという訳でもなく、あとはこのまま何事もなさずただ老いぼれて野垂れ死んでいくだけなんだなと、本書の内容とは一切関係ない失望感みたいなものに苛まされてしみじみとしてしまった(笑)。

 それだけに、彼女がCIAを退職してから、ごくごく身近な人達に対してCIAでの仕事ぶりを明かしたというその気持ちはなんとなく判るような気がする。

 この本を読むと、キヨ・ヤマダという人のことだけでなく、CIAという組織がどういう仕事をしているのかを理解する参考にもなるので、そういう方面に興味がある人は読んでみると面白いかもしれない。

 個人的には、外国語を自ら学ぶことの意義について説明するために他の本(J・C・カールソン著「ワーク・ライク・ア・スパイ」)から引用されていた以下の一節がとても腑に落ちるものがあった。今後は自動翻訳・通訳が発達・普及して、これまで以上に自ら外国語を身に付けようと考えるような人は減ることだろうけれど、それによって失われていくものもすごく多いのだろうなと想像する。

通訳を介しては決してできないことだが、言葉ができる人は、情報交換だけでなく、信頼関係を築いたり、文化を理解したりしていた


 また、CIA職員だったある人物が諜報機関という存在について一般人はどう付き合うべきかを語る一節もかなり興味深かった。

秘密と民主主義は、うまく解け合わないものです。共存しないし、してはならないのです。(中略)民主主義では、もちろん諜報機関が何をしているのかを問われなければいけない。国民はそれを気にすべきだし、なんでも秘密にやっていいと言うべきではない。アメリカ人は正しく、諜報機関に対して不快感を持っているし、持つべきなのです



PS. 翻訳ということを考えるのに面白い記事があったので拾っておくことに。

母語と異言語の狭間の苦闘。『悪童日記』訳者の堀茂樹と「翻訳」の世界

原作者がもし日本語で書いたらこう書くだろうという訳文を目指すということです。もっと厳密に言えば、原語のネイティヴがその本を読んでいる時に頭の中に意味やイメージが流れていきますね、その体験と近似的な体験を日本語の読者にもしてもらうように仕組むということです。

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