September 06, 2019

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観た(ネタバレあり)

 クエンティン・タランティーノ監督作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(原題:Once Upon a Time In Hollywood)」を観た。

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 タランティーノの作品を映画館で観るのは「レザボア・ドッグス(原題:Reservoir Dogs)」以来なのでなんと26年ぶり(笑)。実はタランティーノ作品は他もテレビ放映時に途中から途中までみたいな感じでほとんどちゃんと観たことないし、「キル・ビル」になるとそういう機会も全く無いままで今に至っている。今回はなぜか予告編をYouTubeで観てこの作品は映画館で観たいなと思ったのだけど、まさに魔が差したというべきか……。

 それにしても映画の邦題でこういうカタカナ表記をされてしまうと日本人の多くはタイトルが何を意味しているかあまり直感的に理解できないけれど、「Once Upon a Time〜」となれば英語ネイティブな連中にとってはタイトルを目にするだけですぐにネタバレというか「あー、要するにおとぎ話なのね」と察しがつくのだろう。Once Upon a Timeは日本語に意訳すれば「むかしむかし〜」となる訳だから。

 そういうお約束ありきで観るのと、全く判らないで観るのでは映画の面白さも随分違うだろうと思うし、そういう意味ではタランティーノの映画はいつも日本人には解釈が難しいものが多いような気がする。実際、この映画が終わった後に若い観客が「なんだかよく判らなかったけれど、これアメリカ人なら面白いのかな?」という感想を漏らしていて、おそらくはシャロン・テート殺人事件のことも全然知らないのだろうなと思ったりもした。残念ながらこの映画は日本では若い頃に欧米サブカルかぶれだった今は老人向けの娯楽作でしかないのだろう。

 個人的にグッと来たのは、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースがくたびれた青いフォルクスワーゲン・カルマンギアのカブリオレに乗っていたところ。要するに彼は金が無いということを表現していた訳で、カルマンギアというのは金持ちでなくてもかろうじて手に入るスポーツカーで、昔は日本でも普通に街中で走っているのをよく見かけた。当然、日本でもカルマンギアに乗ってるのはそんなに金は無いけれどできれば外車のクーペに乗りたいみたいな車好きが乗っていた訳で、国産の本気のスポーツカーよりは格安で中古を手に入れることができたりした。今となっては懐かしい老人の思い出話でしかないけれど(笑)。

 あとはリック・ダルトンを演じるレオナルド・ディカプリオの演技がやはり秀逸だった。悪い奴じゃないけれどわがままでパッとしないオッサンみたいな感じで、こういう複雑な癖のある人物を演じさせるとディカプリオは本当に上手い。なんというかディカプリオ本人が本当にこういう人柄で映画全編に渡って下手くそな芝居を演じ続けているように見えてくる。彼の芝居を初めて見たのは「ギルバート・グレイプ」だったけれど、後になって知るまで彼は本当に智恵遅れの役者が起用されているものだとばかり思ったほどで、ああいう特殊な演技を演技と思わせないのには圧倒される。

 音楽的なネタとしては、ビートルズの「Helter Skelter」が使われず、代わりにヴァニラ・ファッジの名カバー演奏「You Keep Me Hangin' On」が使われたのはとても印象深かった。タランティーノはあえてこの曲にすることでおとぎ話として物語を終わらせることに成功していると思う。あの忌まわしい事件を知っている人々に対してはちょっとした目くらましみたいな趣向だけれど、それは同時にとてもやさしい思いやりでもあった気がする。あそこでHelter Skelterがかかっていたら残酷すぎるだろう。

 エンドロールのくだらないシーケンスで観客を笑わせて劇場を後にさせる演出も含めて、タランティーノの過去への様々な思いが詰まった映画だったと思う。まさにタイトル通りおとぎ話に相応しい作品。




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ジェネオン エンタテインメント

クエンティン・タランティーノの才能を世に知らしめたバイオレンスアクション。宝石店襲撃に失敗した強盗たちの確執を描く。ハーヴェイ・カイテルら個性派俳優が共演し、銃撃戦のカメラワークが話題を呼んだ。(製品紹介文より)

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