August 31, 2019

ヘッドホン「SONY MDR-M1ST」を使ってみての感想

 長年家で使ってきたヘッドホンが経年変化でかなり痛んでしまった(プラ部分が劣化してベトベトになったり、合成皮革部分がボロボロになったり…)ので、そろそろなんとかしないとなと感じてからずいぶん長く時間が経ってしまった。ちょうどそんなタイミングで、ソニーから新しいスタジオ用モニターヘッドホンが出るという話を耳にした。しかし、世間で人気がある従来モデルの「MDR-CD900ST」が個人的に全く好きになれないので、あれの後継機種だとするときっと自分はダメだなと決めつけていた。

 MDR-CD900STが好きじゃない理由は、昔スタジオ仕事でヘッドホンでモニター作業しなければならない時に出てくるのが大抵これで、ミュージシャンではない自分にとってそう状況というのは大抵トラブルが発生している場合か、もしくはコーラス要員やハンドクラップ要員が足りなくて駆り出されるときでしかなくて正直良い思い出がない。しかもMDR-CD900STの音質特性が全体にガチガチでとくに高音成分のヌケが良い作りになっていて、やや過敏気味の自分の耳には拷問に近いものがあって正直使いたくないヘッドホンの筆頭だったりした。もっともMDR-CD900STが好まれるのはそういう音だからというのはあるのだけど、あれを普段のリスニング用に好んで使っている人の耳はヤバイんじゃないかと密かに思ったりはしている……。

 で、そんなこともあって、ソニーの新作モデル「MDR-M1ST」もスタジオ用だということでそっち系なんだろうと予想していたら、ソニー曰く「約4年半もの歳月をかけて磨き上げられた音質は、中域の骨太感と、全体の音が俯瞰できる音像を両立。音楽で重要な中域へのフォーカスをしつつ、低音域や高音域もしっかり聴こえます」とあるし、当面は旧モデルとなるMDR-CD900STも並行して継続販売するということで、どうやらMDR-M1STとMDR-CD900STは用途や特性が微妙に違うらしいことが判った。

 ということで俄然気になって、MDR-M1STの発売日の翌日にヨドバシカメラへ出かけてみたらラッキーなことに店頭に現物があり試聴できたので、いつものようにiPhoneの音源を色々聴いてみた。

 店頭試聴でまず問題となったのは、MDR-M1STのプラグは標準プラグ仕様ということでこのままではiPhone(SE)のミニプラグジャックに刺さらない。店にたずねたところ変換プラグを貸してくれたのでこれで対応することに。気のせいレベルかもしれないけれど、変換プラグを介しての接続となる分いくらかの音質劣化は想定しなければならないのかもなと思いつつ、いつもこの手の試聴で利用する音源をいくつか聴いてまず感じたのは、ヨドバシの店内がうるさいということ(笑)。いくらMDR-M1STが密閉式ヘッドホンといえど、ちょっとシビアな試聴には厳しい。なんというか普段聴き慣れた音源がいまいち良い感じで聞こえてこないのが気になった。しかしまさかBGMガンガンの店内放送を止めてもらう訳にもいかないので、仕方がないのでMDR-M1STと同じような価格帯の他のヘッドホンをいくつかピックアップして、とても試聴環境として最適ではない条件下でそれぞれがどう違って聞こえるのかを比べてみた。

 面白いことに、他のヘッドホンでは音源の特定の帯域が強調されるような印象のある中で、MDR-M1STは比較的上から下の帯域まで均等に鳴っている感じがした。つまり、MDR-M1ST以外のヘッドホンは特定の音域がきれいに聞こえるような演出が施されている一方で、MDR-M1STはフラットでボーカルが聞こえやすいとか、ベースがブリブリ派手に鳴るといったことが無かった。つまり、いわゆるスタジオモニターライクな鳴り方なんだろうと解釈できる。ちょっと不安ではあったけれどおそらくMDR-M1STの音は自分の嗜好に合ってそうだということで思い切って購入を決意。

 家に持ち帰ってからは、MacBookにオーディオインタフェースを接続してハイレゾ音源やCDをリップした非圧縮音源で色々試聴してみたけれど、耳に痛くないけれどヌケが良く、いわゆる解像度の明瞭なモニター的再生を楽しむことができた。スタジオ内での楽器演奏時のモニター用途としては従来のMDR-CD900STの方を好む人が少なくないだろうけれど、一旦MDR-M1STに慣れてしまえばMDR-CD900STに戻りたいと思う人はあまり多くないかもと思ったり。

 MDR-M1STが一般的なリスニング用途に適しているかといえば、おそらくはもう少し緩い音場感でボーカルなどにフォーカスが集まった演出をしているヘッドホンの方が気持ち良いだろうと想像するけれど、ヘッドホンミックスみたいな作業用途にはかなり使いやすい製品だと思う。全体の音場感を把握するのが楽で、低音成分も判りやすいし、それなりに長時間モニターしていても嫌にならないのは素晴らしいと感じた。

 今のところ個人的に一つだけ不満があるとすると、どうやら自分の耳は普通の人よりもやや大きいようで、イヤパッドがあと少しだけ厚めなら快適さがさらに向上しそうかなと想像するのだけど、イヤパッドの微妙な作りの違いが音質に大きく影響するのは避けられないので、とりあえずはこのままで使い続けてみるのが良いのだろう。


ソニー・ミュージックソリューションズ ハイレゾ対応スタジオ用モニターヘッドホンSONY MDR-M1ST
ソニー・ミュージックソリューションズ

ソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同開発したスタジオモニターヘッドホン。プロフェッショナル向け音響製品を生産しているソニー・太陽株式会社にて製造。プロ用製品で培われた品質管理のもと、熟練作業者により手作業で一つ一つ丁寧に造られ、厳しい検査を経て出荷されます。(製品紹介文より)
  

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August 11, 2019

トランスペアレントな歪みペダルは自分に必要なかった話

 エレキギターを弾く者ならいつかははまる沼の一つが歪み系のエフェクター。とくに「トランスペアレントな歪みペダル」という厄介な代物があって、これは一体何なんだろうかと考える人は多いんじゃないだろうか。

 つまらないオチとしては単なる楽器メーカー業界の作りだしたマーケティング用語というのもあって、これはアメリカの名だたるエフェクタービルダー達も認めるところがあって、なおかつそれでも「トランスペアレントな歪みペダル」を求めるギタリストは今も少なくないみたいな状況でもあるみたいな面倒くさい状況は変わらない。

 自分も何かあるんじゃないかとずっと気にしているのだけれど、先日、「トランスペアレントな歪みペダル」の代名詞とも言える某オーバードライブペダルが中古で店頭にあるのを見つけ試奏する機会があった。で、確かに世間で言われるようにこのペダルはとてもトランスペアレントな歪みと言える音をしていた。ちょっとビックリするぐらいにギターとアンプのクリーンな音からそのまま歪んでいくような趣を再現してくれていて、その正確なトーンの感じはちょっと感動ものだった。

 ただし、その正確無比でトランスペアレントな歪みが自分の求めていたものかといえば、全然違った。

 試奏した条件は、どちらかというと初心者向けの低価格モデルのストラト、アンプはJC-120というとてもオーソドックスな組み合わせ。で、これでクリーンに鳴らしてもつまらないわけだけど、そこにトランスペアレントな歪みペダルを足しても、味けの無い歪んだ音が綺麗に出るだけ。要するに、トランスペアレントな歪みペダルは、ギターとアンプの素の音のままで少しずつ歪んだ状態を上手に再現してくれるので、特にアンプの音が面白くなければ、そのまま面白くない歪んだ音になるということ。これでアンプの素の音が味わいのあるものであれば、そのまま味わいのある歪んだ音になるのだろうことも想像できた。

 良いアンプがあればトランスペアレントな歪みペダルはかなり使いでのある道具になりそうだけど、自分は普段JCみたいなアンプを使う機会が多いので、そこでちょっとした演出をして味わい深い歪みを作りだしてくれるエフェクターが欲しい訳だから、そういう用途にトランスペアレントな歪みペダルは全然向いていないということを学習できた。

 歪み系のエフェクターはかなり個人の嗜好に左右されるし、どんなに他人が評価していても自分には全然面白くないことがよくあるので、とても面倒くさい。まさに沼だなと改めて痛感したという話。

 自分が愛用してる歪み系ペダルの基本はXoticのAC Boosterなんだけれど、これも他の人からすると全然面白くない代物である可能性はかなり高そうだし、そういう意味では他人から歪み系ペダルのことで何かたずねられても答えようがないなと思ったり……。


Xotic AC Booster 【国内正規品】
Xotic

「BOOSTERと言うカテゴリーを見つめ直しどんなAMP,GUITARの特性もスポイルする事無くBOOSTする」を理念に開発したのがAC BOOSTERです。楽器のキャラクター・においを変える事なく素直にGAIN UPします。(製品紹介文より)
  
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