July 29, 2018

ブレイディみかこ×松尾匡×北田暁大「そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学」を読んだ

 政治も経済もよく判らない無教養なままで歳をとってしまったので、たまにはこういう本でも読んでみるかと手に取ってみた。

4750515442そろそろ左派は〈経済〉を語ろう——レフト3.0の政治経済学
ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大
亜紀書房 2018-04-25

日本のリベラル・左派の躓きの石は、「経済」という下部構造の忘却にあった!アイデンティティ政治を超えて、「経済にデモクラシーを」求めよう。バージョンアップせよ、これが左派の最新型だ!(書籍紹介文より)

 政治的なことについては右にも左にも、保守にも革新にも、ほぼ何の共感も覚えることはないのだけど、この本の中で語られている話題には色々と共感を覚えることがあり意外というかなかなか面白かった。とくに印象にのこったのはブレイディみかこさんが語った以下の部分。

ナオミ・クラインといえば、遅れてきた環境活動家みたいなイメージが強くって、それこそ消費社会に「NO」、資本主義に「NO」と言ってきた知識人の典型みたいな人じゃないですか。でも、その彼女が、これからは「反◯◯」みたいなネガティヴなやり方はダメだ、人びとを惹きつけるようなポジティヴなヴィジョンを打ち出さなければいけないと気づいたそうです。
(中略)
日本でも、野党とその支持者たちは、「NO」と言っているだけでは民衆から本当の支持を得ることはできないと思うんですよ。

 あー、このところずっと思っていた違和感はこれだったのかというとても判りやすい指摘だった。ナオミ・クラインの著書「No Is Not Enough」は機会があれば読んでみたいと思う。

 自分は今後も何か政治的なことでコミットしたり活動する機会があるとは思わないけれど、日本の政治にはもうちょっと大人で頭の良い人が出てきてほしいと願うばかり。日本社会全体としてはそういう状況を全然願っていない感じがするので、そういう期待をするだけ無駄なんだろうとは思いつつ……。  

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July 15, 2018

伴野準一「スコット・ジョプリン 真実のラグタイム」を読んだ

 ツイッター上で高橋健太郎さんがこの本についてコメントしていて興味を覚えた。残念ながら現状は出版元で品切・重版未定となっており、アマゾンなどでは古書が高騰しているため入手は断念。地元の図書館に蔵書があったので借り出して読んだ。

4393935128スコット・ジョプリン 真実のラグタイム
伴野 準一
春秋社 2007-05-20

19世紀末、アメリカ音楽界に颯爽と登場した黒人作曲家の栄光と挫折…。数々のヒットナンバーを放ちながら、本懐を果たせず病に倒れたスコット・ジョプリン(1868-1917)—その波乱の生涯と昨今のラグタイム事情(演奏史・受容史)を綿密な資料調査・取材にもとづき活写した鮮烈なノンフィクション。(書籍紹介文より)

 恥ずかしながらスコット・ジョプリンという音楽家の名前は知らなかったけれど、本書を読んですぐに映画「スティング」で起用された数々の楽曲の作曲家ということが判り、「あぁ、そうだったのか」という感慨と共に、ジョプリンの数奇なという形容がふさわしい生涯が綴られた文章は一気に読ませるものがあった。

 自分も間違った認識をしていたのだけれどラグタイムはジャズの一種ではなく、ジャズの起源の一つであるということ、映画「スティング」でジョプリンの音楽が使われるのは実は時代考証的に不自然なのだけれど、制作側があえて彼の音楽を取り上げたこと、1900年前後のアメリカではラグタイムがまさに50年代のロックンロールと同様に国中を席巻する流行となったけれどロックンロール同様に不道徳な音楽として社会的に疎まれたことなど、様々な発見があって本当に面白い本だった。

 この本を読んで改めて気付いたことは、今となってはラグタイムに興味を持つのは主に欧州の人々であって、本国アメリカではあまり関心をもたれず、とくにラグタイムを作りだしたはずの黒人ミュージシャン社会ではほとんど相手にされなくなったという点で、これは黒人音楽文化の大きな特徴なんじゃないかと感じる。ブルースも同じような流れにあって今となっては古いスタイルのブルースを演奏する若い黒人ミュージシャンは本当に少ない。もしかしたらヒップホップも同じようにいつの日かアメリカの黒人音楽文化の中では過ぎ去った古くさいスタイルとなり、そうした音楽を連綿と継承するのはアメリカ以外の国に住むミュージシャン達ということになる未来がやって来ても不思議じゃないなと勝手に想像してしまう。

 ジョプリンの作品は自分にとってはやはり映画「スティング」で知った音楽という印象がとても強くて、しかも彼の音楽に出会ったことで自分の中に培われた音楽のセンスみたいなものはとても大きい。もし自分の人生の中で出会った音楽ベスト100みたいなものがあれば「The Entertainer」という楽曲は絶対に欠かすことのできない1曲。

  
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