March 01, 2015

映画「アメリカン・スナイパー」を観た(たぶんネタバレ注意)

 本国ではこれまでに公開された戦争映画史上最高の興行収入額を実現しながらアカデミー賞を獲れなかったというなかなか曰わく付きの作品。国内では実際のところどうなのか知らないけれど、身近なところでは割と不評な感が強い。で、やはり不人気なのかどうかは知らないけれど、映画の日だというのに割と良い席を予約できたので観に行ってみた。

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 毎度のことながら、今回も作品に関する事前情報はほとんど知らずで臨む。ただし、映画がほぼ完成を迎えたタイミングで不幸にも主人公であるクリス・カイル本人が殺されてしまい、急遽ストーリーを一部変更したらしいことだけは知っていたし、それがどう反映されるのかは気になっていた。

 まず、先に結論を書いてしまうと、やはり意図しないエンディングを迎えてしまったクリス・カイルの死がこの映画作品に与えた影響は破格に大きくて、とても不幸な結果(つまり失敗作)になっていると思う。できれば、カイルの人生が違う形になっていれば、この映画の可能性はもっと大きかったのではないか。しかし実際には残念なことに「アメリカン・スナイパー」という映画は単なるアメリカンヒーローの冗長な追悼映画に堕してしまった。おそらくイーストウッドが望んだ形では全然ないだろう。けれど、あまりにも絶妙なタイミングによる事件のため、ああした終わり方しか出来なかったのだと想像する。

 で、ここから先は単なる妄想なのだけれど、この映画はマイケル・チミノの「ディア・ハンター」のリアル版としての戦争告発作品になるはずだったのではないだろうか。冒頭でカイルが父親と初めての狩猟に出かけるシーンがあり、映画の最後で今度はカイルが自分の息子と狩猟に出かけるシーンがある。本来であれば、あの後半の狩猟のシーンでもっと示唆的な何かがあったのではないだろうか。また、カイルが4度目の派兵で帰国した際のバーにいるシーンも本来はもっと色々なエピソードがあったのではないだろうか。あのシーンはあまりにも唐突で、なぜバーで一人ビールを飲んでいるのかが全く意味不明だった。

 これは不遜な物言いになってしまうのかもしれないけれど、カイル自身がこの「アメリカン・スナイパー」という映画の失敗には一番失望しているのではないだろうか。彼が本来求めたことは、戦争のヒーローをこうした悲劇でもって偶像化し賞賛することにはなかっただろうから。そういう意味でもとても後味の悪いエンディングだった。

 映画の音響に関しては、街中での銃撃で残響音が響くのが印象に残ったけれど、映画館の音響システムの問題なのか自分の耳の不調なのか、それとも映画の演出がそうなのか、今どきの派手な効果音満載の映画に慣れている身としては全体的にかなり地味な鳴り方だと感じた。しかし、それが実は逆にリアルであるのかもしれない。実際の銃撃や爆破の音というのは乾いた素っ気ないものだというから。なお、サントラでは1曲「Taya's Theme」をイーストウッド自身が作曲して提供している。

P.S. そういえば、イーストウッドの前作「ジャージー・ボーイズ」で大きなカギとなる楽曲が「Can't Take My Eyes Off You」なんだけれど、あの曲も「ディア・ハンター」の中で割と大きな意味を持っていたりする。で、ジャージー・ボーイズを観た直後にふとディア・ハンターを観たくなったりしたのだけれど、もしかしてイーストウッド本人もそんなことを考えたりしたのだろうか。それは考えすぎかな……。

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アメリカン・スナイパーを観ているのであれば、こちらの作品も一度は観てみることをおすすめ。やはり戦争によって心が蝕まれるとはどういうことかを描いた作品。
  

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