July 31, 2014

レコード会社の役割を今さらで考えてみる(その1)

 レコード会社が何をしているのかって、レコード会社やその周辺で働く人達にとってみれば当たり前の知識なんだけれど、そうした世界から外にいるとあまり知られていないのかもしれないと思ったので、レコード会社の役割みたいなものを適当に表にまとめてみた。

goodoldays

 以下、表について簡単に説明していく前にまずはお断り。自分はもうリアルなレコード会社の現場から離れて随分時が経つので、おそらくここに書いている情報はかなり時代遅れなものだろうということ。なので、表のタイトルにも「古き良き時代」という形容を付けてみた。目安としては、だいたい90年代初頭のまさにレコード会社がブイブイ言わせていた「渋谷系(笑)」前後の時代といったところ。

 で、昔のレコード会社は余裕があったので、まずアーティストの発掘・育成にとてもお金をかけていた。この部分にどれだけちゃんと投資できているかが、「良いレコード会社」を見極めるための一番の指標でもあったと思う。そしておそらく2014年の今、そういうことにお金をかけられるレコード会社はあまり存在しないんじゃないかという危惧はある。

 続いて、契約の話。この表ではザックリと「アーティスト契約」にまとめてしまったけれど、日本のレコード会社は邦楽制作という条件の場合、アーティスト当人とは直接契約しないのが一般的。契約するのはアーティストが所属する事務所とになる。これはまさに「ザ・芸能界」な業界慣習の一つであって、欧米のレコード契約ではレコード会社とアーティスト本人が契約するのが普通。

 ちなみに、「アーティスト契約」の正式名称は「専属実演家契約」となり、要は契約したレコード会社が販売する音源向けに専属で歌唱・演奏しますよという契約が主となる。なので、一旦この契約をしてしまうと、他社の音源制作などで歌ったり演奏したりする場合には、その都度契約レコード会社と交渉して許諾してもらわないといけない。自分が仕事してた頃のメジャーレーベルにおける専属実演家契約の印税率は1パーセントが標準だった。かなり売れてようやく2パーセント。それより上の印税がもらえるのはかなり特殊事例だったと思う。しかも、この印税が実際に支払われるのは事務所であって、事務所がその所得の中からさらに一部を契約アーティストに給料として払うという体裁だったりする。

 1パーセントなんていう印税ではさすがに事務所の台所事情も大変という訳で、古き良き時代には、レコード会社から事務所へ別途助成金が支払われるのが当たり前だった。売れないアーティストの場合は、この助成金が食うための原資となっていたし、豪華なライブの経費もこうした助成金から賄われていた。今はもうこういう助成金がほとんど無くなったと聞くので、当然ながら事務所運営は大変だし、無駄に豪華な演出付きのライブをやる余裕はなくなりつつあるのだろうなと思う。

 原盤制作については、レコード会社のディレクター(A&R)が優秀であれば、どういう企画でアルバムを作るか、どういう選曲をするか、どういうレコーディングをするか、どういうパッケージングにするか等々、アーティストの成長に合わせてしっかりとコーディネートして、作品として優れしかも売れるものを作り出していたけれど、今の時代にそういう人材はかなり希少だろう(自分が働いていた当時でも本当に優秀な人は少なかったけれど、今よりはずっとたくさんいたと思う)。今は、こうした企画面や制作面についてはアーティストや事務所にお任せで、レコード会社自らが主導して何かを作ろうということは組織のあり方としてもあまり望まれていないように見える。つまりクリエイティブな仕事で何か責任を取ることは無い方向へ向かっている感じ。

 ちなみに、原盤制作の予算を出した者が基本的には「原盤権」を持っていると考えて良い。レコード会社が原盤制作予算を負担していない場合は、原盤制作者から権利を貸与、譲渡あるいは売却してもらう形でパッケージの大量生産を行うことになる。

 製造というのは、出来上がった原盤を大量に複製してパッケージを作る工程。最近多くの人が興味を持つようになった「マスタリング」というのは、本来は大量複製するための準備作業の一環でしかなかったため、原盤制作予算には含まれないものだったけれど、今は「音」を決める重要な要素となってしまったので、製造というよりは原盤制作(つまりはレコーディング)の一部として扱われる場合が多いのかもしれない。

 宣伝・営業については、表にある通りなんだけど、パッケージ製品を作って売るということにおいては、流通チャンネルに対しての告知・プロモーションが、各メディアへの宣伝よりもずっと重要だった。なぜなら商品が店頭に並んでいなければ、売れるものも売れない訳で、とにかくお客がたくさんくるショップの店員に知ってもらい応援してもらうことが、メディアへ露出するよりもプライオリティが高く、この傾向はとくに大型レコードチェーンが力を持つようになった90年代には顕著になった。もちろん、店に置いてもらえれば、次はメディアでどれだけ露出するかが勝負を決する訳だけど、店頭前面に平積みでドカーンと展開されるパワーはすごかった。

 レコード会社において、各種権利処理を行う法務部門の人間がどれだけ柔軟な思考力を持つかどうかは、クリエイティブな面にはあまり関係ないように見えるけれど、とんでもない話で、実はサンプリング処理みたいな既存の社会常識ではあり得なかった事態が出てきた時に、それをいかに的確かつ迅速に対応できるかはとても大事な話で、これが出来ないが故に折角の新しい作品が商品化できなかったみたいな話は実は結構あると思う。なので、クリエイティブな仕事をする場合には、優秀な法務担当者を味方にすることがとても大切なのだ。

 という訳で、かなり適当に昔のレコード会社の役割を説明してみたけれど、少しは誰かの役に立ったのだろうか? もし続きを書く気が残っていれば、次回は今の2014年の状況に合わせて、レコード会社ってこれからも必要なのだろうかみたいなことをダラダラと書いてみたい。

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